記事一覧

消費者への啓発・教育事業についての現状

消費者への啓発・教育事業については、現状さまざまな形で行われているが、よりいっそう本格的に取り組むべきことと考えられる。金銭に関することは、われわれが生活を送っていくのに切っても切れないことであるので、子供や学生だけでなく成人や高齢者にも、また低所得者だけでなく高所得者にも押し並べて必要なことである。金銭教育への関心を高めるために啓発として1回限りの講演もあるし、教育としてより体系的に学習するのであれば、フィナンシャルマネジメント講座のような講座を生涯学習の分野で広げていくことも考えられる。

たとえば、社会にあるいろいろな団体・学校・企業に出かけていって講義やセミナーを仕かけることもあるし、広く普及している生涯学習機関(公民館や生涯学習センター等)にこの種の講座の導入を図ることは可能であろう。これを実現していくには、金銭教育を担える人材の育成が必要になる。すでにこの種の相談に応じている消費生活センターの担当者や金融機関の相談担当者なども、きちんとした組織的な再教育を受けることが求められる。また、金銭関係で苦労したことのある人や家族が自分の経験から、また金融関係の職に専門的な人なども、この分野に関こ心をもち積極的に社会で働きたいという場合も想定されるから、そうした人々を金銭教育の講師に養成していくことも考えられる。

「生活と金銭」に関してのしっかりしたカリキュラムに基づいた教育を受けて講師職が確立されれば、社会教育の分野はいうに及ばず、学校教育や大学教育でもフィナンシャルマネジメント講座は普及していくものと思われる。金融関係者への教育ということも重要である。融資と回収そのものについては大小を問わず職域で教育を受けているはずであるが、小口金融に関しでは、借り手側の「生活と金銭」、またそこから発生するトラブルについての多様なケーススタディ、それが与える社会的影響に関してまで、視野を広げて考える教育を受ける必要があろう。

この種の教育は、企業、特に金融系の幹部になっていく人が部下の指導のためにも求められるものであり、また直接に対応する人たちにも必要とされる知識である。以上のように、金銭管理教育は、現在なんらかの金銭的な問題を抱えている人、問題でなくても不安を抱えている人たちに対する「金銭管理カウンセリング」、生涯学習を中心としてさまざまな場面での「啓発・教育」、金融を業務として取り組んでいる人たちに対する「金融関係者への教育」をあげて、幅広く教育活動を行っていくべきことを提言している。

消費者教育・金銭管理教の必要性

クレジットカウンセリングにおいて消費者教育・金銭管理教育は重要な位置づけがなされることになる。だが、現状における消費者教育は「金融リテラシー」という言葉に発展している。金融リテラシーは主に資産運用を指南するものであり、金融商品のリスクとリターン、安全l生・流動性・収益性に基づいた金融資産の理想的な構築をどのように形成するかが主である。特に、超低金利政策によって預貯金金利が限りなくゼロに近づいたこと、また実質所得の伸び悩みを背景として、リスクをとってどのように利息や配当を得るのか、どのように収入を増やすのかに力点が置かれており、おおよそ家計管理について指南をすることはないといっても過言ではない。

では、クレジットカウンセリングにおける「消費者教育」「金銭管理教育」とは、どのようなものであろうか。『フィナンシャルカウンセリング研究会報告書』によると、金銭管理教育の取組みとして、①金銭に係る問題の相談(金銭管理カウンセリング)、②消費者への啓発・教育、そして③金融機関の従事者など金融関係者への教育、の3つの方向性を示している。金銭管理カウンセリングは、単に金銭に係る問題解決の相談に乗るだけでなく、金銭管理・ライフプラン(生涯設計)や自己管理などの「生き方」にも係ることである。

このために、直接カウンセリングを行う場の設定が必要になる。実際に既存の相談機関の消費生活センター等を活用すると同時に、新たに時代の発展に合わせて、消費者に身近な教育施設にも設定していくことが求められる。これを可能にするには、実践上の問題を絶えず研究していく機関があること、またその成果を広く社会に還元していくことも必要となろう。また、金銭管理カウンセリングを行える人材の養成も不可欠である。

金銭管理教育の3つの方向性

消費者教育は、本来は幅広い範躊を指すものであり、合理的・効率的な消費行動を行うためのみならず、安全・健全な消費活動を行うために行われるものであり、その対象となる事象は無数に存在する。クレジットカウンセリングにおける消費者教育の範躊は、消費者が健全な家計管理行動をとるために必要なもので、主に「金銭管理」という言葉で表すことができる。消費者は企業と比較して、商品やサービスに関する情報量が圧倒的に不足している。それはインターネット時代においてもそうであり、単に情報量という表現よりも、「正しい情報の量」と表現したほうがより正確といえる。このような情報格差の状態において、消費者は圧倒的に不利な状況に置かれている。

それゆえ、残念ながら正しくない企業は先般の事故米問題や賞味期限切れ、消費期限切れ商品の付替問題、産地偽装などさまざまな偽装や問題を起こす可能性があり、消費者はトラブルに巻き込まれる可能性がきわめて高い。これは金融上の取引においても同じである。サブプライムローン問題においても、サブプライムローン関連商品にAAA格が付与されていた問題や、リーマンショックによる株価暴落で老後資金があっという間に消滅したという報道、FX取引によるトラブルなど、金融上のリスクもかなり存在する。このような状況下、消費者に金融上のみならず経済的行動を合理的に行うための知識の付与は急務である。かつて日本においては、金融上のリスクは規制によって露顕することがないシステムが構築されていた。

しかし日本版ビッグバンによって、リスクは市場参加者が負担するシステムへとコンセプトが大きく変更されることとなり、消費者であろうと、それが預金であろうと、リスクを負担するシステムにさらされるようになったのである。それまでリスクの存在を無視した経済的行動、特に金融行動を行うことができた消費者は、制度変更によりリスクを意識せざるをえなくなったが、残念ながらそれを十分に理解したうえで行動することにスムーズに変化できるほど、消費者には教育がなされていない。さらにクレジットカウンセリングにおいては、その対象となる金融事象は主に「負債」、すなわち借金となるが、日本に限らず世界中において「借金=悪=恥」であり、借金問題を口にすることは「ご法度」という文化がある。借金について学ぶ機会など皆無であるといっても言いすぎではないだろう。

「対症療法」に該当するクレジットカウンセリングとは

「対症療法」とは、患者の主訴を中心として表面的な症状の消失あるいは緩和を主目的として施される療法を指す。対症療法においては、患者の苦痛や症状を取り除くことに力点が置かれることになる。一般的には不十分な治療法とされるが、患者の苦痛を取り除くことは患者に冷静さを取り戻してもらうためにも必要なことである。この「対症療法」に該当するクレジットカウンセリングの範躊は「債務整理」であろう。債務整理とは、「現在抱えている債務あるいは返済負担を債務返済能力の範囲に軽減するもの。債務者が現在抱えている問題を解決し、本人が受け入れ可能な状態にして、冷静さを取り戻し、その後の生活改善の基礎を築くために必要なもの」である。

つまり、現在の借金を本人が返済できる形に変えて、家計崩壊の危機を回避する手段ということになる。「原因療法」あるいは「根本療法」とは、症状や疾患の真の原因となっているものに目を向け、それを治したり取り除いたりする治療法である。対症療法だけでは、真め意味で病気を治療したということにはならない。つまり症状という結果だけを取り除いただけで、原因についての改善が行われていない場合には、病気の再発という危険は依然残ったままとなる。ゆえにその原因を取り除き、二度と病気にならないようにする療法である。この原因療法に相当するクレジットカウンセリングの範躊が「心理的ケア」と呼ばれるものである。

心理的ケアとは「多重債務者が抱えている現在債務は、単に「多くを借り入れたから」ではなく「多くを借り入れざるをえなかったから」という視点に立って、①人格および外的要因の解決を相談者とともに行い、②自力更生を促すこと」で、多重多額債務問題解決の事後的対策といえる。実際の病気の治療においては、対症療法と原因療法をバランスよく取り入れる必要がある。すなわちクレジットカウンセリングにおいても、債務整理と心理的ケアの双方を取り入れ、クライアントの要求に合わせて生活改善を行っていくことが望ましいのである。

クレジットカウンセリングの範疇

前記のように、クレジットカウンセリングは家計における問題解決を図っていくものである。しかし家計における問題解決のためには、さまざまな局面においてさまざまな手法で対応していく必要性がある。クレジットカウンセリングは「病気という問題の解決」の過程に似ている。われわれは、普段は身体に関することについてはメンテナンス・フリーと考えている。すなわち日々の生活において、大病さえしなければ特に問題はなく、日常生活を見直すことなく日々暮らしているわけであるが、健康状態が思わしくなくなってくると不安が生じ、発病という事態になってから病院に駆け込み、処方を行ってもらい、症状改善や回復とともに以前の生活に戻るというのが一般的であろう。しかし本来の医療は、「予防医療」「対症療法」「原因療法」が必要なのである。 

「予防医療土あるいは「予防・予測医療」というのは、厚生労働省の「健康日本21計画」で取り上げられているもので、病気や障害による社会的な負担を減らし、国民の健康寿命を延長して、活力ある持続可能な社会を築くことを目的としている。また病気を予防する方法には3つの段階があり、1次予防としては、①個人の生活スタイルの改善を通した健康増進、②環境における危険因子の削減、③病気の発生の予防を目指す疾病予防があるとしている。また、第2段階では病気の早期発見、早期治療をあげ、第3段階ではリハビリテーションをあげている。


この「予防医療」に相当するクレジットカウンセリングの範躊として、「消費者教育」をあげることができよう。消費者教育とは「クレジット・アドバイス、あるいはクレジット・コンサルテーションとも呼ばれるもので、多重多額債務問題解決の事前策ともいえるものである。方法としては、①家計管理教育、②クレジット教育、③借入および返済計画の策定などがある」とされている。この消費者教育においで、予防医療の第1段階は「家計管理教育」が該当すると考えられる。次に第2段階としては、「クレジット教育」が当てはまり、第3段階のリハビリテーションは「借入および返済計画の策定」が該当する。

セーフティネットとクレジットカウンセリング

「家計におけるなんらかの問題」とは、多重多額債務のみならず過重債務、すなわち返済が困難化しているあるいは困難化しつつあることや、返済は順調に行っているものの貯蓄形成が困難であること、さらに貯蓄はあるものの将来(特に老後)における経済的不安を抱えていることも含まれる。また、「自らの力では解決・処理できない」とは、問題解決のためのノウハウをもたない、あるいはノウハウはあるもののそれを実行する意志が弱い等を含んでいる。なお、ここでは「個人」に限定している。企業と家計の資金繰りの悪化では、その解決方法は大きく異なるからである。

企業は金融機関からの追加融資等、資本の増強によって事業再生を果たすことが可能であり、その返済資金も投下された資金による事業活動より生じるのに対して、家計では消費が目的であるから、返済資金は自らの収入や資産の取り崩しにより行われるため、追加融資は返済負担の増加となり多重多額債務へと陥ってしまう可能性が高い。個人の経済的問題の解決には企業とは異なる方法が必要であるため、クレジットカウンセリングでは原則的には個人に限定しているのである。

次に、「一定の訓練を受け資質を備えた人」とは、家計管理技術や資産運用の知識やノウハウのみならず、経済・金融の知識、心理学的知識と経験、家計部門にかかわる法律の知識、社会保障に関する知識等、個人が経済活動を行うにあたって必要な知識と経験全般を修得している人、ということである。さらに「望ましい人間関係」とは、クライアントとカウンセラーとの間における信頼関係のことである。この信頼関係がないと、クライアントは自らの状況のすべてを正確に正しくカウンセラーに伝えないからである。

「主として直接面接により」とは、カウンセラーがクライアントを、信頼関係のもと、問題解決へと誘うためには直接面接が最も有効ではあるが、クライアントの状況によっては電話による相談、あるいはメールや手紙による相談という手段を用いる場合もあるため、「主として」という表現を用いている。「問題の原因追究・解決」とは、表面上位存在するさまざまな経済的・金銭的問題を解決することはもちろん、その根本に存在する原因を追求し、それを除去することによって、二度と同様の問題を抱えないですむようにすることを目指す、ということである。そして問題解決のみならず、その後の積極的な個人の家計管理等経済活動の深化・成長を促進する道をつけていくことがクレジットカウンセリングの理想的な方向性といえよう。

クレジットカウンセリングとは?

消費者が経済活動を行うにあたり、必要なセーフティネットとしてはさまざまなものを指摘することができるが、その1つとしてとらえられるものとしてクレジットカウンセリングがあげられる。クレジットカウンセリングとは、西村隆男教授によると「専任のカウンセラーが、債務者の生活状況を診断し、本人の支出行動の改善を促し、生活の新たな目標を立てさせ、無理のない一定額の返済を続けながら、生活再建を目指すための援助のこと」と定義されている。

一方、『フィナンシャルカウンセリング研究会報告書』では、クレジットカウンセリングという言葉ではないものの、金銭管理カウンセリングを定義しており、「相談者が、金銭・家計の管理を自律的になし得るよう、相談を受け助言することである。法的整理を含む金銭管理と心理カウンセリングをその内容とすべきものと考える」とされている。いずれにせよ、クレジットカウンセリングあるいは金銭管理カウンセリングと呼ばれるものは、「消費者あるいは債務者の家計の状況を把握し、現在目の前に存在している経済的な困難や問題を自らの力で解決できるように誘うこと」といえる。「カウンセリング」という言葉は、以下のように定義されている。

①カウンセリングとは、援助を求めている人々(クライアント)に対する、心理的コミュニケーションを通じて援助する人間の営みである。

②その際、援助者(カウンセラー)は、一定の訓練を通じて、クライアントとの間に望ましい固有な対人関係を確立することが可能であることを要請される。

③この関係が要因として働き、現存する精神面や身体面や行動面における症状や障害の悪化を阻止し、あるいはそれを除去し、変容させるだけでなく、さらに積極的に、パーソナリティの発展や成長を促進し、よりいっそうの自己実現を可能にし、その個人としてのありようの再発見ないし発掘を可能にする。

また、カウンセリングの成立要件として、次の5つをあげる。

①なんらかの適応上の問題を抱えている個人が存在すること。

②その個人は、自力ではその問題を解決・処理できないでいるか、あるいは、少なくとも本人自身は”自力では解決・処理できない”と思っていること。

③心理学的訓練を受けて助力者としての資質や資格を備えた人が存在すること。

④その両者が主として直接面接し、両者の望ましい人間関係を基盤として、その問題解決・処理をめざす共同作業を進めていくこと。

⑤その方法は、薬物投与や機器の使用など医学的処置によらず、心理学的方法つまり言語的あるいは非言語的方法(行動の遂行)によること。そして、「カウンセリングとは、なんらかの適応上の問題をもち他者の助力を必要とする個人と、心理学的な訓練を受けて助力者としての資質を備えた人が、主として直接面接し、望ましい人間関係を基盤として、言語的あるいは非言語的な方法により問題解決をめざす援助過程である」と定義している。

以上より、クレジットカウンセリングとは、「家計においてなんらかの問題を抱え、自らの力では解決処理ができない状態である個人に対し、一定の訓練を受け資質を備えた人が、望ましい人間関係のもと、主として直接面接により問題の原因追究・解決を目指し、さらに積極的に個人の家計管理等経済活動の深化・成長を促進する過程である」といえる。

市場経済主義の問題点

市場経済主義には当然のことながら問題点も存在する。たとえば資源配分は効率的にはなるが、公平になるとは限らず、ゆえに貧富の差が拡大するという「格差の問題」が生じることとなる。また、市場経済の均衡メカニズムは倫理的な価値を含まないので、もたざる者がさらに追い込まれるという「格差の拡大の問題」を含んでいる。しかも市場経済は完全競争がその前提にあり、市場が完全であることが大原則であるため、現実の市場で生じる公共財や情報の不完全性の問題、外部不経済といった問題も生じやすく、「市場の失敗」と呼ばれる事態が発生する。

市場経済主義は「優勝劣敗」という原則のもとに進められる。すなわち、市場経済主義は「敗者」を生み出すシステムということになる。この敗者は、市場が完全でなければ不平等な扱いを受けた結果敗れたことになる。それが正しいかどうかは火をみるよりも明らかである。敗者に再チャレンジする機会を与えなければ、市場は一部の者による独占や寡占につながり、やはり格差が問題となる。特に消費者は、情報面において不利な立場にある。情報分析力においても劣位にあり、意思決定の面でも企業に比べて確実性があるわけではない。

ゆえに、市場経済主義においでは明らかに弱者として存在している消費者に対し、消費者保護、預金者保護、投資者保護等さまざまな施策を行わなくてはならない。したがって、消費者が市場経済のもとで公平に経済活動を行うには、さまざまなセーフティネットが準備されなければならない。セーフティネットとは、もともとサーカスの空中ブランコや綱渡りの際に、落下に備えて張られている網のことである。これを経済や金融に当てはめると、リスクが顕在化した場合の救済手段であったり、その存在によって安全や安心を提供したりするシステムであるといえる。

そのため、セーフティネットは網の目のように救済策を張る必要性があるととらえられており、雇用におけるハローワークや雇用保険、生活保護などの社会保障制度、金融におけるペイ・オフなどが具体的なものとして紹介されている。セーフティネットは、競争による敗者や競争条件を満たさない者への配慮、リスク顕在化の防止を目的として設定されているものといえよう。わが国の金融市場は市場経済化することにより、リスクを市場参加者に負担するシステムへと変更した以上、市場参加者がリスクを積極的に負担できる情報開示システムやリスクが顕在化した場合の救済システムが必要となるのである。